フランス在住★高齢出産女の社会時評

現地の生活者ならではの内容、しかし、ただ生活しているだけではない観察眼が売り

マクロン大統領の貧困政策

「金持ちの大統領」の汚名返上?

前回、所得の再分配について書いたところで、ちょうどフランス政府の「貧困対策プラン」が発表されました。最近人気が微妙なマクロン大統領。金持ち大統領」の汚名を払しょくしたいのでしょう。事の重大さも分かっているのでしょう。マクロン大統領自身が発表しました。​

 

子どもの貧困

​貧困対策の第一の柱は、「子ども」に置かれています。フランスでは3歳から無料の公立幼稚園に通うことができますが、それまでの間、子どもたちは、保育園やベビーシッター、親が見るなどの方法で保育されます。貧しい家庭の子が保育園に預けられている率(5%)は、裕福な子(22%)に比べて低く、それには貧しい地域には保育園が少ないなどの理由があるようです。学校である幼稚園とは違い、保育園は無料ではありません。今回のプランでは、保育園の拡充とともに、親が職業教育や求職活動を行う間に子どもを預けることができる保育園を増やすこと、妊娠4か月から保育料援助を前払いすることなどが提案されています。​

 

貧しい子供に朝食を

その他には以下のようなものが目玉施策となっています。​

ー小学校で朝食を出すこと​

ー収入に応じた給食料金を拡大し、1食1ユーロ(約130円)から食べられるようにすること​

ー18歳までの義務教育​

格差は社会の活力を損なう

大統領はこの施策を紹介する演説の中で、貧困が「幼少時から人の人生の軌跡を決め、早くから才能、野望、夢を破壊してしまう」と述べています。大統領はこのように貧困によって人生が決定づけられ、何世代にもわたって継承されてしまうことを「最悪のスキャンダル」と呼んでいます。同大統領は、生粋の経済リベラルと思われ、大統領選時には自身を「社会主義者ではない」と述べて物議を醸しました(社会党政権の閣僚であったにもかかわらず)。近年では、労働組合の力を大胆にそぎ、解雇をしやすくする労働法改革を率いたことも記憶に新しいところです。その時には「金持ちの大統領」とさんざんに揶揄もされました。彼は、左翼ではありません。しかし、固定的な格差が才能の開化を妨げ、社会の活力をそぎ、経済的にもプラスでないことを分かっているのでしょう。さすがですね。洗練されたネオリベラルのお手本みたいな人です(誉め言葉です)。​

 

新自由主義版ベーシックインカム? ​

そして、注意が必要と思われるのが、一種の”ベーシックインカム”ではないかと思われる最低所得保障の創設です(2020年に法律を予定)。所得が一定以下になったらすべての人が同じ条件で受け取れる手当です。現存する住宅手当や生活保護などの手当を一つに統合するのだそうです。そしてこの援助は、就業支援なので、これを受け取る場合は職安が提案する就職を拒否できなくなることになりそうです。”ベーシックインカム”にもいろいろありますが、自助を中心に置いた、非常にネオリベラルらしい”ベーシックインカム”ですね。一貫しています。​

 

所得の再分配の徹底ぶり

 フランスで実際に子どもを育てていて驚いたことは数々ありますが、一番は「富の再分配」が隅々まで徹底しているということです。「富の再分配」とは、税や社会保障によって貧富の差を是正して不平等が固定化しないようにすることです。

 

 日本でも累進税率や社会保障による「再分配」があるはずなのですが、よく指摘されるのが、日本は再分配した後に貧困が悪化する唯一の先進国だということ。それじゃあ「再分配」の意味がないではないか!ということになります。フランスや北欧などでは、再分配を通じて子どもの貧困を大幅に減らすことに成功しているのに、日本は税や社会保障を通じて、貧しい子どもを増やしちゃっていることになります。つまり貧乏人からとって金持ちに流しているってことで、いわゆる悪代官状態、完全にディストピアです。。。

http://kodomo-ouen.com/questionnaire/08.html#03

 

 こんな変な状態を解消するためには、所得税の累進性を強化して生活保護などを充実させる程度のことしか以前は考えたことはなかったのですが、フランスで子どもを育てるうち、所得の再分配がより広い場面で表れていることに気が付きました。

 

 例えば、近所の保育園に入れないなどの理由で、ベビーシッターを直接雇用することは非常に一般的です(ベビーシッター制度については機会を改めて)。ベビーシッターの雇用に対しても、所得に応じた補助の役割が大きいのです。ベビーシッターを直接雇用して、3歳未満の子どもを預ける場合、扶養する子どもが1人の家庭で、年収が20,550€(約270万円)以下の場合、毎月467€(約6万円)の援助が受けられます。シングルマザーなどのひとり親の場合には、この額は4割増しです。ただし、この援助には所得の制限はなく、額はかなり低くなりますが、所得の多い家庭にも支給されます。

http://www.caf.fr/allocataires/droits-et-prestations/s-informer-sur-les-aides/petite-enfance/le-complement-de-libre-choix-du-mode-de-garde

 

 保育料の減免措置は、日本でも導入が進んでいるようです。ただ、そもそも待機児童の問題もありますし、働き方によっては保育園に預けることが難しい親もいます。ベビーシッターの雇用についても大胆な援助があることは、待機児童の解消に役立つとともに、雇用を生み出しています。(大きな役割を果たしているベビーシッターの労働条件についてはまたの機会に)

 

 ところで、フランスでは9月と言えば、新学年の開始。新学期の準備で最も慌ただしい時期の一つです。部活動のないフランスの学校。スポーツやアートなどを学ばせたければ、学校の外で習い事をさせなければなりません。そうした課外活動のリサーチや申し込みは、夏休み前の6月ぐらいから活発に行われ、実際の活動はやはり9月に始まります。そこで、また気がついたのはそこでも再分配が機能していること。ある程度公的な性格の施設だと、収入に応じて料金が決まります。もちろん学童保育の料金や給食費もそうなっています。

 

 ここまで徹底しての高い出生率なんだな、と思うわけです。そういう投資が思い切ってできるか。てか、しないと滅びると思うんだけどな、日本。

自己紹介

パリ郊外で日仏の血をひく幼児2人を育てる40代日本人女性です。日本を離れて5年半、妊娠・出産・子育てはもっぱらフランスで経験しました。別にそうしたくてそうなったわけではなく、自分のキャリアへの忸怩たる思いがありつつ、悩みを抱えつつ、こちらで生活しております。

というわけで、時折見かける「外国人の素敵な旦那様と可愛いこどもとこんな素敵な生活をしているのよ、私」系のブログではまったくありません。自分の日常を多く占める子育てに関する話題も出てきますが、あくまで社会批評。

みんなが憧れる「おフランス」の漂白されたフランスではなく、虚飾のないリアルな生活体験に基づく批評をお届けしたいと思います。

もちろん、「フランスはこんなにひどい、やはり日本はスゴイ」のような国粋ブログでもありません。残念ですが、最近の日本は衰退国家の匂いがプンプンしています。外部から見ていて、「日本人として、居ても立ってもいられなくなってきた、何か言いたい!」、というのが、このブログ開設の理由の一つでもあります。

それでは、次回からいろいろ書いていきたいと思います。

よろしくお付き合いくださいませ~~。